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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)977号 判決

原告

小村浩美

被告

株式会社近畿工業

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、金二二四二万五七四三円及びこれに対する平成三年二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告らは、原告に対し、各自、金三〇二九万〇八三四円及びこれに対する平成三年二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実など

1  (本件事故の発生)

被告井戸裕之(以下「被告井戸」という)は、平成三年二月二二日午前一一時四五分頃、神戸市西区学園西町一丁目一五先県道(以下「本件道路」という)において、自家用軽四貨物自動車(神戸四〇め六三八九。以下「被告車」という)を運転して走行中、原告運転にかかる自家用原動機付自転車(神垂は三二八七。以下「原告車」という)に対し、後方から衝突した。

2  (原告の受傷と治療経過)

(一) 原告は、本件事故によつて、第二、三、四、五腰椎脱臼骨折・腰椎椎弓根骨折、右肋骨骨折の傷害を受け(以下「本件受傷」という)、次のとおり入通院して治療を受けた(ただし、右事実中、原告の国立神戸病院、三菱神戸病院及び高橋クリニツクに対する各通院の事実は、甲二号証の一・二、八号証、一〇号証の六七ないし七一、原告本人の供述によつてこれを認める。)。

(1) 水守外科 平成三年二月二二日

(2) 国立神戸病院

同日から同年六月一日まで入院(一〇〇日)

同月二日から平成五年三月一二日まで通院(実日数一八日)

(3) 兵庫県立総合リハビリテーシヨンセンター・リハビリテーシヨン中央病院(以下「リハビリ病院」という)

平成三年八月六日から同年一〇月六日まで通院(実日数一三日)

同年一〇月七日から同年一一月三〇日まで入院(五五日)

同年一二月一日から平成四年一二月一日まで通院(実日数一九日)

(4) 三菱神戸病院 平成五年二月二三日通院(一日)

(5) 高橋クリニツク

平成四年五月二七日から平成四年六月八日まで通院(実日数四日)

(二) 原告は、平成五年三月一二日症状固定との診断を受け、後遺障害について、自賠責保険において併合一〇級に該当する旨の認定を受けた。

3  (被告らの責任原因)

(一) 被告井戸は、進路前方の安全確認を怠つた過失によつて本件事故を惹起したから、民法七〇九条に基づき、原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告株式会社近畿工業は、本件事故当時、被告車を保有していたから、自賠法三条に基づき、原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

4  (損害の填補)

原告は、これまでに、自賠責保険から金四三四万円、被告ら側から金二〇〇万三二四五円(後記水守外科の治療費金一三万三二四五円を含む)の合計金六三四万三二四五円の支払を受けた。

二  争点

1  損害額の算定

被告らは、原告主張の損害の費目及び金額についてその大半を争うが、特に、後遺障害による逸失利益算定の際の労働能力喪失割合について、併合一〇級とされた一一級七号(腰椎の変形)及び一二級一二号(腰椎骨折等による両下肢等の神経症状)のうち、前者は労働能力に影響を及ぼすものではないなどとして、一〇級所定の二七パーセントの労働能力を喪失したものではなく、一二級一二号所定の一四パーセント程度にとどまる旨主張する。

2  過失相殺

(被告らの主張)

原告は、本件道路(南北道路)の北行第一車線(走行車線)を走行中、進路前方の三叉路交差点(以下「本件交差点」という)北詰の横断歩道付近において、突然、原告車を減速し、何ら合図をすることなく第二車線(追越車線)上に進路を変更してきたため、その後方約二〇メートルくらいの地点を時速約五〇キロメートルの速度で走行していた被告井戸は、原告車との衝突を回避するため、急制動をするとともに右転把をしたものの、間に合わなかつたのである。

以上によると、原告には、進路変更に当たつて合図を怠つた過失(道路交通法五三条、同法施行令二一条)と後続車の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれのある場合に進路を変更した過失(同法二六条の二第一、二項)があるから、原告の損害額の算定においては、相応の過失相殺がされるべきである。

(原告の反論)

原告には被告ら主張の過失は存しない。

本件事故は、原告が進路変更の合図を行い、後方の安全確認をした上で、進路変更を終えた際、時速七五キロメートルの高速度で走行していた被告井戸が、前方の安全確認を怠つたため、原告車の進路変更に気付くのが遅れ、自らも漫然と進路を変更しようとしたために原告車に衝突して発生したのであつて、被告井戸の一方的過失に基づくものであり、原告には何ら落度はない。

第三当裁判所の判断

一  損害額の算定

1  治療費 合計金九二万一八五五円

(一) 水守外科(争いがない) 金一三万三二四五円

(二) 国立神戸病院(甲一〇号証の一ないし三〇) 金三五万六九二〇円

(三) リハビリ病院(甲一〇号証の三一ないし六六) 金四一万二二九〇円

(四) 三菱神戸病院(甲一〇号証の七一) 金一万一五五〇円

(五) 高橋クリニツク(甲一〇号証の六七ないし七〇) 金七八五〇円

2  付添看護費(請求額金一〇七万四〇〇〇円) 金八三万二五〇〇円

(一) 本件受傷及び治療経過に関する前記判示の事実と証拠(甲二、三及び七号証の各一、乙四号証〇一、原告本人の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告(昭和四五年八月二五日生。本件事故当時、満二〇歳)は、本件受傷のため、強い腰痛と歩行困難等を来し、いつたん水守外科に入院したものの、低血圧シヨツクが生ずるなどしたため、直ちに国立神戸病院に転医して入院するに至つたこと、原告は、本件事故当日から入院中の平成三年四月中旬頃までの間、ほぼ寝たきりの状態にあり、また、その後の同病院に対する通院及びリハビリ病院に対する入通院を通じ、立位及び歩行困難、両下肢の運動制限等があつたため、体動時には母親(パート勤務を休職した上でのもの。)の付添看護を要する状態にあつたことが認められる。

(二) 右認定の事実関係と前記判示の入通院日数に基づくと、原告の付添看護費としては、入院日数合計一五五日につき、一日当たり平均金五〇〇〇円の割合が相当であり、また、通院日数合計二三日(ただし、リハビリ病院退院時まで。なお、国立神戸病院については同時点までの一〇日間に限る。)につき、一日当たり平均金二五〇〇円の割合(ただし、後記4のとおり通院交通費を別途損害として認容する。)が相当であるから、以上を合計すると、次の算式のとおり、本件事故と相当因果関係があると認めるべき付添看護費は、合計金八三万二五〇〇円となる。

五〇〇〇(円)×一五五十二五〇〇(円)×二三=八三万二五〇〇(円)

3  入院雑費 金二〇万一五〇〇円

原告の本件受傷の内容及び程度、症状の内容等からすると、前記一五五日間にわたる入院雑費の額は、一日当たり金一三〇〇円の割合が相当であるから、これを合計すると、金二〇万一五〇〇円となる。

4  装具代(争いがない) 金四万一五三〇円

5  通院交通費 金一八万六八八〇円

原告の本件受傷の内容及び程度、症状の内容等からすると、原告の前記通院についてはタクシーの利用はやむを得ないものであつたと認められるところ、証拠(原告本人の供述)及び弁論の全趣旨によると、国立神戸病院に対する通院(一八日)には片道金一九二〇円を、また、リハビリ病院に対する通院(三二日)には片道金一八四〇円を要したことが認められ、以上を合計すると、次の算式のとおり、金一八万六八八〇円となる。

一九二〇(円)×二×一八十一八四〇(円)×二×三二=一八万六八八〇(円)

6  アルバイト休業による損害 金三四万九九九九円

証拠(甲五、六、八号証、九号証の二・三、原告本人の供述)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故当時、大阪音楽大学器楽科二年生(ピアノ専攻)であり、平成二年一一月以降、アルバイトとして、毎週一回、神戸市中央区三宮町所在の中華料理店「東天紅」においてピアノの生演奏の仕事をしており、在学中は右アルバイトを続ける予定であつたこと、そして、原告は、右アルバイトによつて、月額金一万四〇〇〇円の割合による収入を得ていたこと、原告は、前記のとおり本件受傷による腰痛及び両下肢痛等のため、リハビリを余儀なくされた上、座位の姿勢を続けることやピアノのペダルを踏むことになお支障があつたため、本件事故当日から卒業予定頃の平成五年三月一二日までの間(合計七五〇日)について右アルバイトに就くことができなかつたことが認められる。

右認定の事実関係に基づくと、原告の右アルバイト休業による損害は、次の算式のとおり、金三四万九九九九円となる。

一万四〇〇〇(円)÷三〇×七五〇=三四万九九九九(円)

7  留年による損害(請求額金三三八万三九〇〇円)金三一九万〇一〇〇円

(一) 授業料

これまでに認定説示した原告の症状の内容と証拠(甲六号証、原告本人の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故後の当初においては、国立神戸病院の医師の励ましもあつて、平成三年四月から始まる三年生の授業について何とか出席して留年を回避するつもりでいたため、同年第一期分の授業料金三〇万円及び運営維持費金一四万円の合計金四四万円を前記大学に納入したこと、しかしながら、原告は、前記のとおりリハビリに日時を要したことから、右第一期期間中には復学することができず、その後、第二期以降は正式に休学手続を取つたために右支出は不要となつたこと、そして、原告は、リハビリ病院を退院した後の平成四年四月から復学し、その結果、平成六年三月、一年間遅れて前記大学を卒業したことが認められる。

右認定の事実関係に基づくと、原告は、本件受傷の治療及びリハビリのために一年間の留年を余儀なくされたということができるから、右経緯によつて支出した平成三年第一期分の授業料等金四四万円は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(二) 就職遅延に基づく損害

また、前記(一)の事実関係に基づくと、原告は、右一年間の留年を余儀なくされたことによつて、就労開始が一年間遅延したということができるところ、平成二年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・新大卒女子労働者(二〇歳―二四歳)の年収額は、金二七五万〇一〇〇円であるから、以上によると、原告は、本件事故によつて右一年間分の収入喪失の損害を被つたと認めるのが相当である。

8  マンシヨン賃借料(請求額金一六五万四〇〇〇円) 金一四〇万二〇〇〇円

(一) これまでに認定説示した原告の症状の内容と証拠(甲六号証、七号証の一・二、原告本人の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、前記復学に当たり、本件受傷による腰痛及び両下肢痛等のため、原告の肩書住所地の自宅から前記大学(大阪府豊中市庄内町所在)まで電車等を利用しての片道二時間を要する通学を行うことが困難であつたこと、そのため、原告は、平成四年三月、同大学近くにおいて、新たにマンシヨン一室を賃料等月額合計金五万八〇〇〇円、保証金二五万円(金五万円の返却分を控除したもの)の約定に基づき、卒業までの二年間にわたつて賃借したことが認められる。

右認定の事実関係に基づくと、原告は、本件受傷によつて、公共交通機関を利用しての通学には支障が生じたということができ、右マンシヨン賃借による下宿の必要性を肯認し得るから、右認定にかかる程度の金額の二年間分の賃料等と保証金の支出は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、以上に基づき、右損害額を計算すると、次の算式のとおり、金一六四万二〇〇〇円となる。

五万八〇〇〇(円)×二四十二五万(円)=一六四万二〇〇〇(円)

(二) 通学費の負担減

被告らは、原告の右マンシヨン賃借による下宿に関し、原告は右賃借によつて二年間にわたつて従来要していた通学費の支出を免れたとして、右通学費として合計金二五万六八〇〇円をマンシヨン賃借によつて生じた損害の中から控除すべきである旨主張する。

そこで、検討するに、証拠(乙五号証)及び弁論の全趣旨によると、平成四年四月から平成六年三月までの二年間における原告の自宅から前記大学までの通学費としては、通学定期券購入の方法及び期間等からすると、これを控え目に計算すれば、金二四万円程度を要するものと認められ、右金員は前記(一)の損害額から控除するのが相当である。

そうすると、前記マンシヨン賃借による損害額は、結局、金一四〇万二〇〇〇円となる。

9  後遺障害による逸失利益(請求額金一八二二万〇四一五円) 金一五三一万六九五六円

(一) これまでに認定説示した原告の症状、後遺障害に関する事実と証拠(甲八号証、九号証の二・三、乙二号証、原告本人の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、平成五年三月一二日(満二二歳)、国立神戸病院において、腰椎の変形、腰痛及び腰椎の運動制限、両下肢の知覚鈍麻及び筋力低下等の後遺障害を残して症状固定との診断を受けたこと、そして、原告は、右後遺障害につき、自賠責保険において一一級七号(脊柱に奇形を残すもの)及び一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)の併合一〇級に該当する旨の認定を受けたこと、原告は、前記大学の復学及び卒業後を通じ、依然、体動時に腰痛、両下肢痛及び知覚鈍麻等があり、コルセツトの常用を余儀なくされている上、そのほかにも頻尿及び尿漏、生理及び排卵異常等の症状が現れるに至つたこと、原告は、本件事故前には音楽の教員になることを目指していたものの、本件事故に基づく右後遺障害のため、平成六年三月に前記大学を卒業して以降、自宅で個人的にピアノ教師をしていることが認められ、また、原告がピアノ演奏を行う場合における支障の具体的内容は前記6でみたとおりである。

右認定にかかる後遺障害の内容及び程度、就労及び日常生活に対する現実的な支障の程度、将来の転職に対する制約等のほか、原告には一〇級各号それ自体に該当する後遺障害が存在するとまではいえないこと及びいわゆる労働能力喪失率表における各等級の割合等を総合して考えると、原告は、前記後遺障害のため、前記大学卒業時の満二三歳から労働可能な満六七歳までの四四年間にわたつて、その労働能力を二五パーセント喪失したと認めるのが相当である。

(二) この点に関し、原告は、右後遺障害につき、九級一〇号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当する旨主張するが、本件証拠を仔細に検討してみても、未だ右事実を認めるに足りるだけの的確な証拠は存在しないといわなければならない。

また、一方、被告らは、原告の後遺障害による逸失利益算定の際の労働能力喪失割合は一〇級所定の二七パーセントではなく、一二級一二号所定の一四パーセント程度にとどまる旨主張する。

しかしながら、前記一でみた事実関係によると、原告に生じた前記腰椎の変形自体、腰痛及び腰椎の運動制限等を来し、ピアノ演奏に関してかなりの支障を及ぼしていると考えられるし、さらに、前記後遺障害の内容及び程度、就労及び日常生活に対する現実的な支障の程度、将来の転職に対する制約等に照らして考えると、右後遺障害に基づく労働能力喪失割合は前記のとおりこれを二五パーセントとするのが相当である。

(三) そして、原告の前記大学卒業時(満二三歳)の年収額が平成二年賃金センサスにおいて金二七五万〇一〇〇円とされていることは前記7(二)でみたとおりであり、これを基礎として、中間利息の控除につき新ホフマン方式を用いて(ただし、右係数は症状固定時の満二二歳から満六七歳までの四五年の係数から、就労開始となる満二三歳までの一年の係数を控除した数値とする。)、後遺障害による逸失利益の現価額を算定すると、次の算式のとおり、金一五三一万六九五六円となる(円未満切捨て。以下同じ)。

二七五万〇一〇〇(円)×〇・二五×(二三・二三〇七-〇・九五二三)=一五三一万六九五六(円)

10  慰謝料(請求額合計金七九〇万円) 金七三〇万円

これまでに認定説示した原告の本件受傷の内容及び程度、入通院期間及び治療経過等からすると、原告の傷害による入通院慰謝料は、金二八〇万円が相当であり、また、前記後遺障害の内容及び程度、現在の生活状況等からすると、後遺障害による慰謝料は、金四五〇万円が相当である。

11  損害額の小計 合計金二九七四万三三二〇円

二  過失相殺

1  本件事故発生の状況

まず、本件事故に関する前記判示の事実と証拠(乙一号証の一ないし三、三号証、原告及び被告井戸各本人の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(一) 本件道路は、南北に通ずる片側二車線の道路(ただし、北行車線については本件交差点手前においてさらに右折専用車線が設けられており、一車線の幅員は約三・〇メートルとなつている。ただし、乙一号証の二の縮尺図に基づく。)であり、本件事故の衝突地点は、本件道路に東方からの道路が交差する三叉路の本件交差点内である(信号機による交通整理が行われている。)。

そして、本件道路の見通しは良く、制限速度は時速五〇キロメートルとされている。

(二) 原告は、本件事故当日午前一一時四五分頃、帰宅するため、原告車を運転して本件道路の北行第一車線を時速約三十数キロメートルの速度で北進中、進路前方に当たる本件交差点北側の第一車線上において、その西側寄りに駐車中の自動車があつたため、同交差点南詰の停止線を越えて間もないくらいの地点で、右駐車車両の東側をより安全に通過しやすいようにしようとして、後方の安全を確認した上、減速しながら、右合図をして進路を右側の第二車線上に変更した。

なお、原告は、後方確認の際、原告車の後方約二五ないし三〇メートルくらいの地点に後続する自動車を認めた。

(三) 一方、被告井戸は、その頃、仕事の関係上、被告車を運転して本件道路の北行第一車線上を時速約六〇キロメートルに近い速度で走行し、自車前方約四〇メートル付近に原告車が走行しているのに気付いていたところ、本件交差点南詰の停止線手前に接近した地点で、自らも前記駐車車両の東側を通過しやすいようにしようとして、進路を第二車線上に変更しようとした際、原告車が前記のように減速しながら進路変更をしてくるのを自車進路前方約二〇ないし三〇メートルの付近に発見したため、これとの衝突を避けるため、あわてて急制動をするとともに右転把をしたものの、間に合わず、同交差点内の第二車線中央付近上において、被告車前部が原告車の後部に衝突した。

2  以上の各事実が認められ、原告が前記進路変更に当たり合図をしなかつたとする被告らの主張及びこれに沿う被告井戸の供述部分は原告本人の供述に照らして直ちに採用し難い。

また、一方、被告井戸が本件事故直前において時速七五キロメートルの速度で走行していたとする原告の主張は未だこれを認めるには至らず、採用できない。

3  前記1で認定した事実関係に基づくと、原告は、本件交差点内において、前記のように減速しながら進路変更を行う際、後続車である被告車及びその走行速度との関係において、被告車の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれのある場合であつたにもかかわらず、これを行つたものと認めざるを得ないというべきである。

そうすると、原告には、本件事故の発生につき、道路交通法二六条の二第一、二項の規定に違反した過失があつたというべきであり、右過失は原告の損害額の算定において斟酌するのが相当である。

そして、前記認定にかかる本件事故発生の状況、殊に被告井戸の前方注視の状況のほか、本件道路及び同交差点の状況、原告車及び被告車の各進路変更の状況と走行速度、原告の進路変更開始状況及び衝突地点が北行第二車線の中央付近上であつたこと等を総合して考えると、原告の右過失割合はこれを一割と認めるのが相当である。

よつて、被告らの過失相殺の抗弁は右の限度で理由がある。

4  そこで、前記一11の損害額金二九七四万三三二〇円から、右割合に基づいて過失相殺を行うと、原告の損害額は金二六七六万八九八八円となる。

三  損益相殺

原告がこれまでに損害の填補として合計金六三四万三二四五円の支払を受けたことは前記のとおりであるから、これを前項の損害額から控除すると、原告の損害額は金二〇四二万五七四三円となる。

四  弁護士費用(請求額金二七〇万円) 金二〇〇万円

本件事案の内容及び訴訟の審理経過、右認容額等からすると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき弁護士費用の額は金二〇〇万円が相当である。

五  以上によると、原告の被告ら各自に対する本訴各請求は、金二二四二万五七四三円及びこれに対する本件事故日である平成三年二月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 安浪亮介)

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